《元団員が告発》活動歴のない348人に計1460万円の報酬が支払われていた「幽霊
消防団員」の“深い闇”
5/18(火) 11:12配信
文春オンライン
「それはコンパニオンの派遣代ですね」約7割の予算は飲み会や旅行などに…地域
消防団による“不正請求”の実態 から続く
活動をしていないのに
自治体から一定の公金を受け取る「幽霊
消防団員」。
全国的に広がるこの問題は、
消防団員や
自治体職員の間では触れられない闇として長年放置されてきたが、近年になって告発が相次いでいる。そんな幽霊
消防団員問題について、記者の立場で迫り続けるのが
毎日新聞社の高橋祐貴氏だ。
ここでは同氏の著書『 幽霊
消防団員 日本の
アンタッチャブル 』(
光文社新書)の一部を引用し、公金の流用、緊急時の団員不足にもつながりかねない幽霊
消防団員問題の闇を紹介する。(全2回の2回目/ 前編を読む )
公金が何に消えているのか ──
岡山市での実態調査
岡山市が2015~16年度、一度も活動していない348人の
消防団員に計1460万円の報酬を支払っていたことが市への取材で分かり、18年5月に報じた。348人は、全消防分団が原則参加する年1回の訓練大会やその練習にも参加しておらず、幽霊
消防団員の可能性があった。幽霊
消防団員の常態化は、公金の流用、緊急時の団員不足などにつながりかねず、市消防局は報道後に実態調査を始めた。
長期間活動していない団員の存在が問題視され始めていた中、これだけ大人数の存在が判明するのは異例だった。市消防局によると、市
消防団には17年度、4577人が全99分団に所属していた。市は、活動実績にかかわらず各団員に年2万1000円(一般団員)の報酬を支払っている。また、団員が出動すると各分団長が市に報告し、出動に応じて市が団員に手当を支給する。全分団が原則参加して消火技術を競う年1回の
操法訓練大会などへの参加も支給対象だ。
毎日新聞は、事実上退団しているにもかかわらず報酬が支払われている団員の存在を把握し、17年2月、市に調査を求めた。その結果、15~16年度で全体の約8%にあたる348人は出動・訓練参加の報告がゼロだったことが判明した。
また、手当が支払われていない団員を単年度で見ると、15年度は622人、16年度は567人いることも発覚した。毎年、少なくとも実員の10%超の団員が確認できる履歴上、活動に参加していないことも分かった。
総務省消防庁の通達によると、報酬・手当は団員個人の口座に振り込むことになっているが、
消防団の関係者によると、実際には分団側が口座を管理しているケースが少なくない。市消防局は、
「緊急時にどれだけの団員が配置できるのかは正確に把握する必要がある。実態を調査し、改善を検討したい」
とした。取材に取りかかった中で幽霊
消防団員の男性に事前に
接触した上、詳細を聞いていた点は大きかった。男性が所属する団では、報酬や手当を振り込まれる個人口座の通帳は分団が管理している。そのため、飲食・旅行に流用され、退団を願い出るも約5年間にわたって拒まれ続けた。通帳を再発行すると、無活動の期間で10万円以上の報酬・手当が入金されていた。
《元団員が告発》活動歴のない348人に計1460万円の報酬が支払われていた「幽霊
消防団員」の“深い闇”
5/18(火) 11:12配信
文春オンライン
消防局に携わる職員も見て見ぬフリ
市の財政課は幽霊
消防団員の存在を知っているのか、不思議だった。後に明らかになったことだが、消防局に携わる職員でもこの問題を自覚している人が一定数いながら、見て見ぬフリをしていたのだった。取材で知り合った消防職員が打ち明けてくれた。
市消防局の言い分は、活動報告がゼロだった348人全員を幽霊
消防団員と位置づけることはできないということだった。履歴はないが、活動していると思う、ということだった。幽霊団員の存在は、全国各地で噂され、インターネットで検索すれば団員と思われる人の実体験がいくつも掲載され始めていた。
ただ、こちらが調査依頼をかけるまでは、一定期間、活動履歴がない団員の実態は何も把握できていなかった。
消防団から提出される出動報告書を見返す作業が必要なため、業務量が増えるとしてあからさまに煙たがられた。
「公金が何に消えているのか。市はしっかり調べてほしい」
男性は、約5年前に体調を崩して
消防団に退団を申し出て以来、団員としての活動には一切関わっていない。
岡山市に在住する男性は淡々と訴えながらも、机の上で拳をぐっと強く握る。2017年、
消防団の報酬・手当が振り込まれる個人口座の入出金記録を取り寄せようと、最寄りの金融機関の支店を訪れてくれた。
男性は知人の誘いで
消防団の富山分団に入り、振り込み用の口座を農協系の金融機関で開設してキャッシュカードと通帳を分団長(故人)に渡した。まさか、分団で口座を管理するとは思ってもいなかった。分団が開く月1回の飲み会は、ほぼ強制参加。会場は分団の機庫の2階で、チラシ寿司やすき焼き、缶ビールなどが出た。飲食代は無料で、分団長に尋ねたところ、
「みんなの報酬や手当で賄っている。お金はみんなのものだ」
と堂々と言われた。疑問を感じて口座の明細を見せてもらうよう求めたが、分団で管理しているとして拒まれたという。なぜ、自分の口座にもかかわらず入出金記録を見せてもらえないのか理解しがたく、不信感が募り始めた。
《元団員が告発》活動歴のない348人に計1460万円の報酬が支払われていた「幽霊
消防団員」の“深い闇”
5/18(火) 11:12配信
文春オンライン
男性は、2007年頃、
消防団に入って活動している知人にしつこく誘われたのが入団のきっかけだった。
「話だけ聞いてみようかと思ったのが始まりでした。地域の人や分団長に話を聞いてみると『登録するだけで結構です』という説明だったので、それだったらという軽い気持ちで参加することにしました」
しかし、入団すると飲み会はほぼ強制参加で聞いていた話と異なり、戸惑うばかりだった。飲み会のほとんどは出動後や、新人の入団時の歓迎会を機に開かれた。団員歴が長い人の発言が重視され、典型的な
年功序列の組織だった。新人は歓迎会でもてはやされるが、次回以降の飲み会からは買い出しや調理、片付けなどの雑用をメインで担当しなければならない。機庫で開くため、段取りについて細かい注文を受けた。分団長などのベテラン団員は始まりから終わりまで手伝うそぶりは一切なく、ずっと座りっぱなし。不満は溜まる一方だった。
「飲み食いさせてあげているではないか」
年に1回ぐらいは地域の公民館で、町内会長や婦人会のメンバーも参加した飲み会も開催され、飲食店を利用することもまれにあったが、他組織との交流を兼ねた飲み会以外は機庫で開かれた。飲み会の会話は、多摩地区の
消防団と同様に地域や職場での噂話ばかり。男性が所属している分団は、公務員の比率が高かったので、中心メンバーの職場の話が中心だ。聞いていても登場人物の顔も知らない人の話ばかりの上、同じ話が繰り返されるため、退屈で気が滅入った。
入団後、飲み会が頻繁に開かれていたものの、訓練といえば数分で終わる程度。訓練なしで飲み会だけが開かれることも多かった。2~3年間、悶々としたまま過ごし、全国の実態がどうなっているのかインターネットで調べてみたり、職場の同僚や家族などに相談したりしてみたが、解決の糸口は何も見つからなかった。
何度も心が折れかけたが、支えとなったのは、自分名義の通帳の中身すら見たことがない不都合さだった。疑問に思い、何度も口座を見せてほしいと依頼したが、
「団でしっかり管理している。飲み食いさせてあげているではないか」
と幹部から叱責されるのが落ちだった。飲み会への参加を拒もうと何度も思ったが、厳しかった。
《元団員が告発》活動歴のない348人に計1460万円の報酬が支払われていた「幽霊
消防団員」の“深い闇”
5/18(火) 11:12配信
文春オンライン
「退団を拒んだのも、プールできるお金が減るからではないか。飲食代に使っているのなら税金の無駄遣いだ」
心の中で何度もつぶやき、
消防団と関わることがストレスになった。私が分団長に直接取材した時の受け答えの内容を伝えると、温厚な男性が途端に語気を強めた。
男性はこれまで、退団できないことや個人に手当・報酬が支給されていない実態、分団で銀行口座を一括管理している状況の改善を野党ならと思って市議会議員に相談したが、まともに取り合ってくれなかったという。機庫で開催される飲み会には
与野党関係なく、市議会議員が出入りしているため、なんらかの癒着があるのでは、という疑惑が自然と湧いてきたという。
「行政も見て見ぬフリで、相談しようと思ってもするところがない。どうすればいいですかね」
公金を使う飲み会は必要!?
分団長に直接取材する前、男性とは何度か会って念入りに準備を進めた。幽霊団員の報酬・手当が不正請求されている証拠となる口座の明細をどのタイミングで提示すべきかが焦点だった。
チャンスは一度きりしかなかった。通帳を再発行したことが支店を通じて
消防団に情報が漏れ、キャッシュカードや印鑑が悪用されたり、男性が地域で
村八分にされたりする懸念があった。取材相手に判断を委ねたが、一任してくれたことは本当に大きかった。口座に入金されている金額は、報酬の額と合わなかったが、共済掛金の額が差し引かれて振り込まれていることが分かった。
男性には新規口座を作成した記憶をもう一度確認した。入団時、分団長の自宅に呼ばれ、まったく説明のないまま書類4~5枚にサインするように促され、言われるがまま署名したというが、それが口座開設や管理に関する委任状だったかは分からないままだ。
「少なくとも口座を作る説明はまったくなく、本人確認書類も渡していないのに、なぜ口座が作れるのか。口座の話は分団に参加するうちに、他の団員から噂を聞いて知ったんですが、口座開設のノルマに協力する意味もあって、本人の委任状や印鑑をそろえた上、関係性が明確であれば作れるということを教えてもらいました」
男性の報酬・手当が振り込まれる口座を発行する農協系の金融機関にも取材した。一般的に本人が同意をしていないにもかかわらず、口座が作成され、
消防団の報酬・手当を引き出すことはできるのか。農協系の金融機関の担当者は、
「ご本人の確認が取れる書類の確認が取れた上で、申込書を作成している。ただ、ご本人自身が来られない場合は、
代理人がご本人確認を取った所定の書類に捺印していただいたものを持参してもらえればそれでも受け付けています。それと同時に依頼書をもらって処理しています」
慎重に言葉を選びながら、何度も同じ質問をしてみても同じ回答だった。
男性は退団の申し出について、約1カ月間、集中的に分団長に願い出たが、頑なに受け入れてもらえなかった。一方、分団の活動にまったく参加しなくなると、それはそれで出動率が低いと注意を受けることもあった。
「たまには分団の活動に参加していないと市や消防署から怪しまれることを警戒したのかもしれません。飲み会は毎回、派手に飲み散らかすので分団で一人数万円の報酬がプールできると、3~4回分の費用のあてにはなりますしね」
《元団員が告発》活動歴のない348人に計1460万円の報酬が支払われていた「幽霊
消防団員」の“深い闇”
5/18(火) 11:12配信
文春オンライン
正式に退団できていない証明として、入団後まもなくして配られる分団員の身分証明書も見せてもらった。だが、この身分証明書を返却しようと思っても分団長は受け取ってくれないという。
「体調のこともあったので、私はこの約5年間、団の活動には一切参加していません。なのに、バカみたいに公金を不正受給して飲み食いに利用していると思うと本当に腹立たしいです」
男性のみならず、他の団員が不思議に思っていないのか。素朴な質問をしてみると、
「飲み会のお金を一切払ったことがないことをいいことに感覚が麻痺した人ばっかりです。公金という意識はまったくないと思います」
当時の分団長にあたってみようとしたものの、すでに亡くなっていたため、現分団長にあたってみた。市職員でもある分団長は取材に対し、団員には入団時に誓約書を書いてもらい、同意の上で口座を管理していると主張した。集めた報酬は分団の経費のほか、飲み会や旅行の代金の一部などに充てているとも説明した。事実上退団した団員の報酬を使っていることについては、
「うちでは原則、後任を連れてこないと辞められないので団員という認識です。分団の責任ではない」
幽霊
消防団員の存在を認めるような発言で、否定はしなかった。
辺りは住宅地と昔からの農家が混在している地域で、
岡山市の
中心市街地まで車で20分程度。通勤ラッシュ時は、渋滞が激しく、道路が狭かったり一方通行が多かったりする場所もある。地区の東端には人工河川も流れていて、水害が起きる危険性もある。もしものことがあった際、地域に詳しい
消防団が果たすべき役割は大きそうだ。
男性に紹介してもらい、市内の他の
消防団員にも取材した。すると、幽霊
消防団員の存在をさらっと認めただけでなく、
「仕事も年代もバラバラな人たちがまとまって行動するには、日頃から付き合いを深めておくことが重要で、飲み会は必要。そのための軍資金としては仕方がないところがありますし、病気や転勤だったりするとそういう時は仕方なく欠員のままで、私が何人か声を掛けて入ってくる人がいたら入れるようにしているんですがね」
あたかもそれが当然のように口にする姿に違和感を覚えた。
血税を使っているという認識はまったくなかった。
幽霊団員の男性は報道後、分団に通帳の返却を求め続けた。だが、なかなか返してくれず、約半年間にわたって同じことを言い続けた後、ようやく通帳などを返してもらい、退団手続きも済んだという。返却する際には、外部に口外しないように念を押され続けたという。そして、男性は
消防団が活動するエリアから別の地区に住まいを移した。
【前編を読む】 「それはコンパニオンの派遣代ですね」約7割の予算は飲み会や旅行などに…地域
消防団による“不正請求”の実態